「本当になんで、組長はあんたなんかがいいんだろうなあ」
今まで高沢は何度となく早乙女にそう問われてきたのだが、そのたびに彼は、「さあ」と首を捻るしかなかった。
そもそも高沢自身が、櫻内の自分への執着には首を傾げずにはいられないのだ。美女が裸足で逃げ出すほどの美貌の持ち主である櫻内本人なら、男相手に毎夜、腰が立たなくなるほど求められるのもまあ、わからない話ではないと思う。
だが自分は美女でもないし、『美女と見紛う』美貌の持ち主でもない。顔立ちでいえば群衆に埋没するに違いない、これといって特徴のない顔だと思うのだが、櫻内は一体自分のどこに惹かれているのか、高沢本人が早乙女に聞きたいくらいであった。
「今までの組長の愛人はよう、皆が皆、男だったら誰でも骨抜きにされちまうような色っぽい美女ばかりだったんだよ。勿論、組長にはそいつらのほうが骨抜きにされてたんだけどよ」
あたかも美女たちを骨抜きにしたのが自分だとでもいうような自慢たらしい口振りで早乙女がそう言い、胸を張ってみせる。
「面食いということか?」
早乙女の話に高沢が乗ることは滅多にない。が、今夜は彼があまりに「美女」「美女」と連発したためか、珍しく高沢が問いを発した。
「おう、相当の面食いだと思うぜ」
早乙女は即答したあと、また高沢の顔を覗き込み、しみじみとした口調でこう尋ねる。
「なのになんで、組長はあんたなんかがいいんだろうなあ」
「…………」
それはまさしく、自分が『相当の面食い』に好かれる顔をしてないと言いたいのだろう、と高沢が苦笑したそのとき、
「随分暇そうだな、早乙女」
ノックもなしに部屋のドアが開いたと同時に、噂の主が――非常なる面食いにもかかわらず、高沢に骨抜きにされているという櫻内が部屋に入ってきたのに、それまでリラックスしまくりだった早乙女がぴょんと飛び上がった。
「し、失礼します!」
頭を百二十度下げたあと、脱兎のごとく部屋を駆けだしていった彼の姿を、唖然として目で追っていた高沢の隣に、櫻内がドスッと腰を下ろす。
「楽しそうだったじゃないか」
櫻内が美しい目を細め、じろりと高沢を睨んできたのに、
「そうか?」
いつもと同じと思うが、と高沢は首を傾げたのだが、ふと気になり、逆にどこか不機嫌そうな様子の櫻内へと問いかけた。
「今までの愛人のことなんだが」
「なに?」
いきなり何を言い出したのだ、と櫻内が珍しく驚いた顔になる。
「皆が皆、男が骨抜きにされそうな美女だったそうだな」
高沢の問いに櫻内は一瞬何か答えかけたあと、ふっと微笑みひとこと、
「まあね」
と肩を竦めた。
「しかも骨抜きにされていたのは美女たちの方だったとか」
「骨抜きかは知らないが、情が深い女もいたな」
「…………」
どこか懐かしむような目をした櫻内を前に、今度は高沢が一瞬絶句する。
「どうした?}
にやり、と櫻内が微笑み尋ねてくるのに、
「別に」
ふい、と高沢が顔を背けようとした、そのときには既に彼は、座っていたソファに押し倒されていた。
「おい……っ」
いきなりなんだ、と櫻内の胸を押しやった高沢は、ジーンズの上から彼に自身をぎゅっと握られ息を呑んだ。
「まさかお前が妬いてくれるとはな」
それは嬉しげに櫻内が笑う。
「誰が妬いているって?」
「過去の愛人の存在を気にしてみせる……これがヤキモチじゃなくてなんなんだ」
「あれは別に……」
早乙女との会話の続きで、深い意味はないのだ、と言い訳を口にしかけた高沢は、自らそれを『言い訳』と認めていることに気づき思わず苦笑した。
「どうした」
一人微笑む高沢に、櫻内が唇を寄せてくる。
「……いや……」
ジェラシーか――胸に宿った、今まで体感したことのないこの熱こそが嫉妬という感情かと納得している高沢の唇を、常にその感情を胸に秘めている彼の愛人が塞ぐ。やがて室内には互いの胸に宿る嫉妬の熱をかき消すほどの熱い行為に耽る、二人の息づかいの音が響き渡っていった。
Return <<